サロンの合理的配慮、車いすや音が苦手なお客様の予約の相談で「できません」と言う前に確かめる順番
営業時間外に届いた予約フォームの備考欄に、「車いすを使っています。椅子に移れますか」と短く入っている場面を考えます。翌朝、備考欄のことを受付のスタッフに伝えると、「うちは入口に段差があるので、難しいと思います」と、断る返事が先に出てしまいます。結論は、断る前に聞いて話し合う順番を、受付で決めておくことです。
厚生労働省の衛生事業者向けの指針(令和6年3月厚生労働大臣決定)と障害者差別解消法の条文を確かめ(2026年10月16日時点)、障害のあるお客様から配慮の相談を受けたとき、サロンでどの順番で考えるかを整理しました。
断る前の順番は、聞く・並べる・伝える・残すの4つ
1 何に困っているかを本人に聞く。2 できる部分と代わりの方法を並べて話す。3 できない部分は理由を丁寧に伝える。4 話し合った経過を残す。サロンの合理的配慮は2024年4月から法的義務ですが、義務なのは負担が過重でない範囲の配慮です。
2024年4月から法的義務 ─ 義務なのは個別の配慮で、段差の解消などの環境整備は努力義務のまま
合理的配慮とは、障害のある方が店を利用するときの壁(社会的障壁)を、個々の場面で取り除く対応のことです。障害者差別解消法の第8条第2項は、障害のある方から現に配慮を必要としているというお申し出があり、実施に伴う負担が過重でないときは、事業者が必要で合理的な配慮をしなければならないと定めています。これまで努力義務とされていたものが、令和3年の法改正(令和3年法律第56号)で法的義務に改められ、厚生労働省のページによると令和6年4月1日から施行されています。
厚生労働省の指針は、対象となる衛生事業者に美容業(美容師法の規定により届出をして美容所を開設する者)を挙げています。美容所を届け出て開設しているサロンは、この指針の対象です。ただし指針は、何でも引き受けることを求めているわけではありません。合理的配慮は、事業の目的・内容・機能に照らして必要な範囲で、本来の業務に付随するものに限られ、事業の本質的な変更には及ばないと整理されています。
似た言葉に「環境の整備」があります。スロープや段差の解消のように、不特定多数の方に向けて前もって行う備えで、法第5条が定める努力義務のままです。合理的配慮は、特定のお客様の求めに応じて個別に行う対応(第8条)です。段差があることとは別に、相談を受けたときの対応を検討する順番になります。
お申し出は言葉だけではない ─ 意思の表明の受け止め方
編集部で指針を読んで、受付で見落としやすいと感じたのは、お申し出が言葉だけで届くとは限らない点です。指針によると、配慮が必要だという意思の表明は、本人がほかの人とやりとりするときの次のような手段で伝えられます。
- ・言語(手話を含む)
- ・点字、拡大文字
- ・筆談
- ・実物の提示や身振りサインなどの合図
- ・触覚による意思伝達
本人が伝えることが難しいときには、家族、支援者・介助者、法定代理人などが本人を補佐して伝える場合も含まれます。
サロンでは、予約の電話をご家族がかけてくる、受付でスマートフォンの画面を見せられる、といった形で届くかもしれません。いずれも、お申し出として受け止めて検討を始めます。指針は、本人が意思を伝えにくく、家族や介助者も伴っていないときでも、配慮が必要なことが明らかな場合には、自主的に取り組むことが望まれると書いています。
受付での話しかけ方にも例示があります。指針は、本人を無視して、介助者や付き添いの方だけに話しかけることを、不当な差別的取扱いとなるおそれがある例に挙げています。同行の方がいても、まず本人に向けて話します。
指針に載る美容店の4つの例 ─ 声かけ・椅子への移動・ハサミだけ・出張
指針には、美容店での対応の例が載っています。最初の3つは、指針の「具体的対応例」にある、お客様の側が「こうしてもらえて安心した」と受け取った体験談の形の例です。4つ目は、合理的配慮の例に載る記述です。どれもサロンの実例ではなく、あくまで例示です。
- ・視覚に障害のある方: 理容師・美容師が、次に何をするのかを細かく声に出して伝える。仕上がりを確かめるときに、頭を触って長さなどを確認してもらう
- ・車いすを使う方: 理美容専用の椅子への移動を手伝ってカットする。または、車いすのままカットする
- ・音に敏感な発達障害の方: バリカンの音が苦手と伝えたところ、ハサミだけでカットしてもらえた
- ・店への来店が難しい方: 出張による理容・美容のサービスを提案する。指針は、美容師法第7条ただし書などの趣旨を踏まえるとしています
出張については、美容師法の定めに沿う必要があり、対象は厚生労働省の通知で示されています。自店で提案できるかどうかは、所在地の保健所に確かめてください。
美容の施術以外にも、指針の合理的配慮の例には次のものがあります。
- ・店内の移動で困っているときの声かけや手助け
- ・会計を席で行うこと
- ・高い場所に陳列された商品を取って渡すこと
- ・周囲の理解を得たうえで、手続の順番を入れ替えること
- ・不随意の発声や吃音などがある方が緊張しやすい場合に、本人が了承したときは、障害の特性や店の状況に応じて別室を用意すること
指針は、これらの例を全店が実施するものではなく、事業規模や人員体制によっては過重な負担になる可能性があるとも書いています。
「できません」と言う前に ─ 過重な負担を考える要素と建設的対話
配慮が過重な負担にあたるかどうかは、個別の事案ごとに、場面や状況に応じて総合的・客観的に判断するものです。指針は、具体的な検討をせずに過重な負担を広げて解釈して、法の趣旨を損なうことのないようにと求めています。考える要素として、次の5つなどが示されています。右の列は、サロンで当てはめるときの見方の例です(編集部の整理で、指針の文言ではありません)。
| 指針の要素 | 指針の説明(要旨) | サロンで見る場面の例 |
|---|---|---|
| 事務・事業への影響 | 措置によるサービス提供や、ほかの事業への影響の程度 | ほかのお客様の予約枠や、施術の流れにどこまで響くか |
| 実現可能性 | 物理的・技術的な制約、人的・体制上の制約。立地や建物の所有形態の制約も含む | 階段だけの2階の店舗、スタッフが1人の時間帯 |
| 費用・負担 | 措置にかかる費用・負担の程度。複数の方から要望があれば、全体の必要性と負担を勘案する | 椅子や用具の用意にかかる費用 |
| 事務・事業規模 | 事業所の規模に応じた負担の程度 | 1人で営む店と、複数のスタッフがいる店の違い |
| 財務状況 | 事業所の財務状況に応じた負担の程度 | 設備を整える余力があるか |
要素を検討した結果、過重な負担にあたると判断したときも、そこで話は終わりません。障害のある方に丁寧に理由を説明して理解を得るよう努めることが望まれ、そのうえで、双方が立場を尊重しながら対話し、代わりの方法(代替措置)を含めて柔軟に検討することが求められています。この対話を、指針は「建設的対話」と呼びます。本人が普段どんな対策を取っているか、サロンに何ができるかを、お互いに出し合います。
迷いやすい進め方
「うちは狭いから」「段差があるから」と、お申し出の中身を聞く前に結論を出す。断った理由は、スタッフの記憶にしか残らない。
決めておきたい進め方
何に困っているかを聞き、できる部分と代わりの方法を並べて話す。話し合った内容と、できない部分の理由を、短く記録に残す。
たとえば、2階にあって階段しかない店に、車いすを使うお客様から相談が来たとします。その場で「無理です」と返すのではなく、階段の昇り降りがどの程度難しいのか、来店のときにあるとよい手助けは何か、出張での施術という方法があるのかを聞きます(同伴の有無は条件にしません。理由は後の章で触れます)。サロンでできることが見つからなければ、そのことと理由を丁寧に伝えます。受付では、まず「確認してご連絡します。差し支えなければ、お困りのことと、あるとよい手助けを教えてください」と返します。音が苦手というお申し出なら、どの音が苦手かを聞き、指針の例のようにバリカンを使わずハサミだけで施術する形が取れるかを検討します。
不当な差別的取扱いとなるおそれがある例 ─ 対応できるのに拒否する、同伴を条件にする
配慮の検討とは別に、障害を理由にした不当な差別的取扱いの禁止があります(障害者差別解消法第8条第1項)。受付で起こりうる形に置き換えて読むと、指針が「不当な差別的取扱いとなるおそれがある例」として挙げているのは、次のような取扱いです。例示であって、これらに限られるものではありません。
- ・人的体制や設備が整っていて対応できるのに、医療的ケアの必要な方や重度の障害のある方の衛生サービスの利用を拒否すること
- ・本人や第三者の安全性を考えずに、漠然とした安全上の問題を理由に利用を拒否すること
- ・保護者や支援者・介助者の同伴を、サービスの利用条件にすること
- ・ほかの利用者と異なる手順を課すこと(仮利用期間を設ける、ほかの利用者の同意を求める、など)
- ・正当な理由なく、ほかの方とは別の場所での対応に限ること
- ・障害があることを理由に、言葉遣いや接客の態度など、接遇の質を一律に下げること
指針は、客観的に見て正当な理由がある場合は、不当な差別的取扱いにあたらないこともあるとも書いています。たとえば、同行した方が手続を代筆しようとしたときに、プライバシーに配慮しながら、本人に障害の状況や手続の意思を確認することが、その例として載っています。「当てはまるかどうか」は個別の事情で変わります。迷ったときは、このあとの「よくある質問」でご案内した自治体の相談窓口に確かめてください。
予約の受付で聞くこと・控えること ─ 障害の情報は要配慮個人情報にあたりうる
結論から言うと、予約フォームで障害の有無を必須で聞くのは避け、任意の欄にして使い道を添える形が考えられます(編集部の整理です)。理由は個人情報の扱いにあります。個人情報保護法の第2条第3項に「要配慮個人情報」という言葉があります。不当な差別や偏見などが生じないよう、取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報のことです。施行令の第2条第1号は、そのひとつに、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)などの心身の機能の障害があることを挙げています。
同法の第20条第2項は、一定の例外を除き、あらかじめ本人の同意を得ないで要配慮個人情報を取得してはならないと定めています。そこでサロンでは、「施術のうえで配慮が必要なことがあれば、ご記入ください」といった任意の欄にして、何のために使うかを添えます。実際の取扱いで迷うときは、個人情報保護委員会などの窓口に確かめてください。
予約の受付で決めておく5つ
- ・配慮の相談を受ける窓口(電話、メール、予約フォームの任意欄)を、サイトや予約ページに書く
- ・お申し出を受けたときは、本人に向けて「何にお困りか」「どうすれば安心か」を聞く
- ・聞き取った内容は、配慮に使う範囲に絞って控え、何のために使うかを伝える
- ・できない部分があるときは、理由と代わりの方法を伝え、話し合った経過を残す
- ・この順番を、受付に立つスタッフ全員で共有する
指針は、相談の体制づくりも事業者に望まれることとして挙げています。障害のある方やご家族からの相談に応じる窓口を整えておく、という内容です。相談事例は、プライバシーに配慮しながら蓄積し、以後の合理的配慮に活かすことが望まれています。控えを書くときは、5月12日の『カルテのメモ、スタッフに伝わっていますか?申し送りが楽になる書き方』でお伝えした「次の担当者が動けるメモ」の考え方が、そのまま使えます。
AIに案内文や対応メモの下書きを頼むときに渡さないもの
予約ページの案内文や相談への返信の下書きは、AIに頼める場面です。渡すのは、「入口に段差が2段ある」「出張の提案ができるかは確認中」といった店の設備や体制の事実にとどめます。お客様の氏名、電話番号、予約日、障害の内容や病名は渡しません。障害の情報は要配慮個人情報にあたりうるためです。AIに入れてよい情報と、入れてはいけない情報の分け方は、5月15日の『お客様情報、AIに入れて大丈夫?サロンで決めたい3つの個人情報ルール』にまとめています。出来上がった下書きは、「お断り」の文面でなく「相談を受ける文面」になっているかを人が読んで確かめてから使います。
よくある質問
予約ページに「車いすの方はご利用いただけません」と書いてもいいですか?
手が足りない日に、当日の相談が来たらどうすればいいですか?
お客様から「これは違反ではないか」と言われたら、どこに相談すればいいですか?
参考にした情報
制度の内容は、厚生労働省の衛生事業者向けガイドライン(障害者差別解消法の対応指針、令和6年3月厚生労働大臣決定)の本文を取得して確かめました(2026年10月16日時点)。条文は e-Gov 法令検索の「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」「個人情報の保護に関する法律」「個人情報の保護に関する法律施行令」で、相談先は内閣府の「つなぐ窓口」のページで確認しました。
出典
案内文の下書きの指示を、スタッフで揃えておきたい方へ
GlamAIサロン版のプロンプトライブラリには、よく使う指示文を登録して、チーム全員で共有できます。予約ページの案内や相談への返信の下書きを頼む指示を一度登録しておけば、氏名や障害の内容を入れない形で、スタッフが同じ指示を使えます。
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